和歌と俳句

源頼政

君がため うれしきことは うれしきに わが嘆きをば 嘆きしもせじ

うれしさを うれしと思はば おもひしれ 君が嘆きを 嘆きけりとは

おもひやれ くもゐの月に なれなれて 暗きふせやに かへる心を

雲の上に 心をふかく とどめおかば 澄む月影も あはれとぞ見む

言の葉は 下ふく風に ちらしあけて 谷隠れなる わが嘆きかな

人知れぬ 大内山の 山守は 木隠れてのみ 月を見るかな

いつのまに 月みぬことを 嘆くらむ 光のどけき みよにあひつつ

まことにや 木隠れたりし 山守の いまは立ちいでて 月を見るなり

そよやけに 木隠れたりし 山守を あらはす月も ありけるものを

この春や おもひひらけて ここのへの くもゐの桜 わがものとみむ

散るをのみ 待ちしさくらを 今よりは 雲の上にて 惜しむべきかな

たちかへる くもゐの鶴に ことづてむ ひとり沢辺に 鳴くと告げなむ

もろともに くもゐをこふる 鶴ならば わがことづてを なれや待たまし

木隠れに もりこし月を くもゐにて 思ふことなく いかに見るらむ

木隠れと なに嘆きけむ 二夜まで 雲の上にて 見ゆる月ゆゑ

長き夜に いではじめたる 月影に 近づく雲の 上ぞうれしき

和歌の浦に たちのぼるなる 波の音は 越さるる身にも うれしとぞきく

いかにして たちのぼるらむ 越ゆべしと 思ひもよらぬ 和歌の浦波

くらゐ山 のぼるにかねて しるかりき 雲の上まで ゆかむものとは