和歌と俳句

源頼政

十一 十二

おもへとて いはでしのぶの すり衣 心のうちに 乱れぬるかな

千載集・恋
思へども いはで忍ぶの すり衣 心のうちに 乱れぬるかな

もえいでて まだ双葉なる 恋草の いくほどなきに おける露かな

きき知れる 人もやあらむ 忘れつつ うち嘆かるる 夜半のけしきを

身の憂さを 嘆くにつけて しのべども こひはこひとや わきて見ゆらむ

人知れず かよふ心の 目に見えば 早わが恋は あらはれなまし

ことしげき あへのいちぢに われたたし こひを見しれる 人もこそあれ

しのぶとは 君もかつ知る ことなれど いかにか思ふ 訪はぬたえまを

明けばとく かへしなほさむ さよ衣 みてこころうる 人もこそあれ

いつまでか 心にこひを こめおきて もたり苦しき ものをおもはむ

うちでても かひなかりける わが恋を 心の内に おもひ隠さで

隠れなき 涙の色の くれなゐを ふみちらさじと 何つつむらむ

千載集・恋
堰きかぬる 涙の川の 早き瀬は 逢ふよりほかの しがらみぞなき

恋ひそめて しばしは夢も 見しかども 今はいをだに ねられはこそあらめ

世を嘆き 身を恨みても 泣く涙 恋にしなれば 色かはりつつ

思ひわび 夢に見ゆやと かへさずは うらさへ袖は 濡さざらまし

千載集・恋
思ひかね 夢に見ゆやと 返さずは 裏さへ袖は 濡らさざらまし

千載集・恋
山城の 美豆野の里に 妹をおきて いくたび淀に 舟呼ばふらむ

おちちかふ 淀の川舟 こすをあらみ ほの見し人を 忘れかねつる

まことにや うらみのはしを つくり出でて こひわたるとも あはじてふなり

千載集・恋
水茎は これを限りと かきつめて 堰きあへぬものは 涙なりけり

ききもせし 我もきかれし 今はただ ひとりひとりが よになくもがな