和歌と俳句

源頼政

十一 十二

しのびしも 今はあさまの かひもなく もゆる煙と なれる恋かな

うきにさは 中や絶えまし 色なしと はなだの帯を 思ひなしつつ

霜さゆる 今宵しもなど ここのへに 重ねし衣 ひき別れけむ

おなじくは 我にをなびけ をみなへし 吹く秋風は 心さだめじ

まねけども 来ぬ夕されば はなすすき なびきそめけむ ことぞ悔しき

あやなしや 人を恋ふらむ 涙ゆゑ よその袂を けさ絞りつつ

わぎもこが せはちにちかふ 移り香の いつの間にしむ 心なるらむ

よそにのみ 人は軒端の あやめ草 うきねはたえず かくる袖かな

あやめ草 その根にいかで みをなして かくといふなる 袖をはなれし

逢はぬ間は 生ふるあやめの ねを見つつ たたふ涙の 深さをば知れ

かげでだに みぬまに生ふる あやめ草 あさきためしの ねにぞ比ぶる

鐘の音を ひとりぬる夜も いとへばや 逢ふてふ夢を うち覚ましつる

こひこひて 君にはじめて あゐそめの かへる色とは けさこそは知れ

朝まだき 風吹く野辺の 葛の葉も かへればかくや 露ぞ零るる

明けぬとて 帰る涙に くれぬるを くれぬといひて なほや行かまし

むかしより かへることとは 知りながら 今朝や我が身に とまりそめまし

たまづさを 見るかと思へば 妹がりと やりつるつかひ 待たるるもよし

八つ橋と 吹上の浜と 忘れずば 思ひも出でよ 白川の里

八つ橋は ふみたえにしを 今更に 何かくも手に 思ひ乱れむ

流れてと 頼むべきには あらねども 心にかかる 白川の里