夏衣 高フいろも かはりせば 心の内や 涼しからまし
けふやさは 卯の花いろの 白かさね 春のつつじに ひきかへつらむ
かみまつる ころにもなれば 卯木さす こやのそで垣 花さきにけり
けふもなほ 卯の花やまは 越えぬべし その咲く色の くればこそあらめ
卯の花の 垣根なりけり さみだれに あまざらしする 布と見つるは
卯の花の みつの垣根に 咲きければ ながめにわたす 淀のわたりを
かひ下す 鵜舟にかかる 篝火の 見えぬよもなき 下つ闇かな
あはれさは おもひしことぞ ほととぎす 啼くいほりをば 朝たちもせず
照る月に 色はとられて 卯の花の 下枝をのみぞ 垣根とはみる
あやめ草 葺くべき月を 卯の花の うばひてなほも 咲くかとぞみる
ほととぎす 聞きつとかたる 人をさへ またもや来ると 待たぬ夜ぞなき
こひするか 何ぞと人や 咎むらむ 山ほととぎす 今朝は待つ身を
牡鹿ふす 夏野の草を わけゆけば 踏まれにけりな あたら萩さへ
なでしこを わが身のすゑに なるままに 露のみおかむ ことをこそおもへ
おしのくる 夜半の衣を そよぐなる 竹のはおとに ひき着つるかな
くれたけの あたり涼しき うたたねに われさへふしを ならべつるかな
ほととぎす 空にもみちを さだめせば そのひとすぢを 待たましものを
待ちけりと われもやきかむ ほととぎす 汝が名のりせば 名のりかへして
香をとめて 山ほととぎす 落ち来やと 空までかをれ やどの橘
なくこゑの 消えはつるまで ほととぎす やま遠かたを ながめこそやれ