和歌と俳句

源頼政

十一 十二

思はずや 田ならすゆみに ふす竹の ひとよも君に はなるべしとは

世の憂きに 思ひ入りにし 山里を またあとたえむ ことぞ悲しき

思ひやる 心ばかりを さき立てて 行くらむ方へ 我も惑はむ

あさなあさな 恋ひこそよわれ 増鏡 見れば厭ふも 思ひ知られて

我が袖の しのぶもぢずり 濡れ濡れて 乱れあひたる ここちこそすれ

見よかしな はつかあまりの 月だにも 今まで人に 待たれやはする

あひもみて かへればこやの 池水と なれる涙に うきねをぞする

筏おろす そま山川の 浅き瀬は またもさこそは くれのさはらめ

昨日より 涙おちそふ そま川の 今日はまされば くれもさはらじ

音もせで ひと通ひける 道の辺に 何いへゐして もの思ふらむ

千載集・恋
我が袖の 潮の満ち干る 浦ならば 涙の寄らぬ をりもあらまし

新勅撰集・恋
きみこふと ゆめのうちにも なくなみだ さめてののちも えこそかわかね

身の程も 思ひも知らじ なかなかに 逢ひ見ぬさきに なしといひせば

夜もすがら 妹が結べる 下紐は 鐘とともにぞ うちとけにける

こひこひて 稀にうけひく たまづさを おき失ひて また嘆くかな

のせてやる 我が心さへ とどろきて ねたくもかへす むなぐるまかな

声ばかり 通ふやりとの しりさしを なほ頼まぬが 無きここちする

あふみてふ 名をばたがへて しのぶれば 我をあきとや 今はたづねむ

ひきかへし 妹が書きける 言の葉を うらみて今ぞ ねはながれける

ともすれば 涙にしづむ 枕かな 汐みつ磯の 石ならなくに