和歌と俳句

源頼政

十一 十二

今はとて 脱ぎ置くきぬの 袖みれば 我ひとりのみ 濡らさざりけり

まことには くもゐの花を 見むとてや 我によそへて そらたづねせし

たづねつる 心の内を 知るならば 花にもかくや うらみられまし

たづねつつ けふを待ちつる 心をば 花を思ふに なほやなるべき

我をのみ 日を数へつつ 待ちけるが あなかまさらば 花にきかせじ

さてもなほ 人づてならで とひみばや 花かあらぬか 我がことかと

はなきかは さすかこたへま 憂きことを 人づてならで とひはみられじ

逢坂を 越えぬものから 手にかけし 清水がなにぞ 袖の濡るるは

汲みて知れ 逢坂山の 石清水 手にかけけるは あさき心を

もろこしの 花もここには わたりけり まして間近き 人はいかかは

もろこしの 花をわたしの 舟よりも あやふき路は ゆかじとぞ思ふ

逢ひもせず 逢はずもあらぬ 今日やさは ことあり顔に ながめ暮さむ

けさこそは ならはぬ身にも あひてあはぬ 恋とはこれを 思ひ知りぬれ

しかすがに 昼はまばゆし 雲の上の 花は夜みよ 星の光に

今ぞ知る よるはなみよと いひなして やまもる人を とどむべしとは

越えぬとも えこそおぼえね 逢坂の 関に心や とどめ置きけむ

急ぎつる けしきに見えぬ 逢坂の 関に心を とどめしもせし

逢ふことを まつよりもけに けさよりぞ 心にしげく かかる藤波

逢ふことを まつにもあらぬ 嘆きにぞ けさより藤は かかりそめぬる

とへかしな 憂き世の中に ありありて 心をつくる 恋の病を