和歌と俳句

源頼政

落ちかかる 山の端近き 月影は いつまでおもふ わが身なりけり

漕ぎいでて 月ながめむ さざなみや 志賀津の浦は 山の端ちかし

なれにけむ おなしくもゐの 月影に なほひとつなる 庭の霜かな

貝ふむと 潮干にたてる 難波女が かへる葦辺に まよふ夕霧

霧わけて 訪ふ人もなし 鹿のふむ 庭の木の葉の 音ばかりして

さやかなる 月のひかりを 標にて よにふるみちを 辿らすもがな

あるじから あれたるやどの くせなれば おろしこめても 月は見えけり

ねひとつと 今やさすらむ 雲の上の 月を見るにも 忘られぬかな

いにしへの 人は水際に 影たえて 月のみすめる 広沢の池

折りはてぬ 花こそあらめ 秋の野に 心をさへも 残しつるかな

ひともとと さだめてぞ見し をみなへし 花ことごころ あらじと思へば

なき名のみ 磐余の野辺の をみなへし 露のぬれぎぬ きぬはあらじな

しぐれする 空はくもれど なく鹿の うは毛のほしや 隠れざるらむ

木枯らしの 風のたつまで ほころびぬ 菊こそ花の とぢめなりけれ

玉しける 庭にうつろふ 菊の花 もとの蓬の 宿な忘れそ

移し植ゑて このひともとは めかれせし 菊もぬしゆゑ 色まさりけり

またもなき 秋を今宵は 惜しめとや 身そふこひの かたさりにけむ

秋にこそ 今宵わかれめ 木の葉さへ とまらぬ音を 聞くぞ悲しき

秋ゆゑに 寝ぬ夜なりけり 尽きぬべき わが齢をば 誰か惜しまむ

人知れぬ 大内山の 山守は 木がくれてのみ 月を見るかな