夏くれば衣がへして山がつのうつぎ垣根もしらかさねなり
ちはやぶるかものやしろの葵草かざすけふにもなりにけるかな
新勅撰集・夏
さらぬだに臥すほどもなき夏の夜を待たれても鳴く郭公かな
郭公鳴きゆく方にそへてやるこころいくたびこゑをきくらむ
五月こそなれがときなれ郭公いつを待てとてこゑ惜しむらむ
夏もなをあはれはふかしたち花の花散るさとに家居せしより
庭のおもの苔路のうへに唐錦しとねにしけるとこ夏の花
をぶねさし手折りて袖にうつしみむ蓮の立葉の露の白玉
千載集
いつとても惜しくやはあらぬ年月を御禊にすつる夏のくれかな
やへむぐらさし籠りにし蓬生にいかでか秋のわけてきつらむ
新古今集
荻の葉も契ありてや秋風のをとづれそむるつまとなりけむ
七夕の舟路はさしもとをからじなど一年にひとわたりする
新古今集
みしぶつき植ゑし山田にひたはへてまた袖ぬらす秋はきにけり
なにごとも思ひすつれど秋はなを野邊のけしきの妬くもあるかな
夜もすがら妻とふ鹿の胸分にあだし真萩の花散りにけり
続後撰集
身の憂きも誰かはつらき浅茅生とうらみても鳴く蟲の聲かな
露しげき花の枝ごとに宿りけり野原や月のすみかなるらむ