和歌と俳句

藤原俊成

花の色は今日ぬぎかへついつかまた苔の衣にならむとすらむ

山賎の垣ほわたりにやどもがな世を卯の花のさかりなるころ

神やまにひき残さるる葵草ときにあはでもすぐしつるかな

身のうきは問ふべき人も問はぬ世にあはれも来鳴く郭公かな

けふはまた菖蒲の根さへかけそへて乱れぞまさる袖の白玉

早苗をばかけしわが身よ奥手とも思はば頼みあらましものを

丈夫はしかまつことのあればこそしげき歎きもたへしのぶらめ

五月雨はまやの軒端の雨灑ぎ餘りなるまでぬるる袖かな

思ひきや花橘のかくばかり憂身ながらにあらむものとは

閨のうちもとびかふ物思へば床のさむしろ朽ちやしぬらむ

夕立のそそぎてすぐる蚊遣火の湿りはてぬるわが心かな

濁りにもしまぬ蓮の身なりせば沈むとも世を歎かざらまし

埋もれて消えぬ氷室のためしにや世にながらへばならむとすらん

われといへば涼しき水の流れさへ岩間にむせぶ音きかすなり

思ふことみな尽きぬとて御禊する川瀬の波も袖ぬらしけり