花の色は今日ぬぎかへついつかまた苔の衣にならむとすらむ
山賎の垣ほわたりにやどもがな世を卯の花のさかりなるころ
神やまにひき残さるる葵草ときにあはでもすぐしつるかな
身のうきは問ふべき人も問はぬ世にあはれも来鳴く郭公かな
けふはまた菖蒲の根さへかけそへて乱れぞまさる袖の白玉
早苗をばかけしわが身よ奥手とも思はば頼みあらましものを
丈夫はしかまつことのあればこそしげき歎きもたへしのぶらめ
五月雨はまやの軒端の雨灑ぎ餘りなるまでぬるる袖かな
思ひきや花橘のかくばかり憂身ながらにあらむものとは
閨のうちも蛍とびかふ物思へば床のさむしろ朽ちやしぬらむ
夕立のそそぎてすぐる蚊遣火の湿りはてぬるわが心かな
濁りにもしまぬ蓮の身なりせば沈むとも世を歎かざらまし
埋もれて消えぬ氷室のためしにや世にながらへばならむとすらん
われといへば涼しき水の流れさへ岩間にむせぶ音きかすなり
思ふことみな尽きぬとて御禊する川瀬の波も袖ぬらしけり