秋きぬと聞くより袖に露ぞをく今年も半ばすぎぬと思へば
なにごとをわれなげくらむ星合の空を見るにもみつ涙かな
見るからに袖ぞ露けき世中を鶉鳴く野の秋萩の花
身のうさにえぞなづさはぬ女郎花はなの名をさへ折らじと思へば
うき世には門させりとや思ふらむ出でがてにする篠のをすすき
荻原や繁みにまじる刈萱のした葉が下に萎れはてぬる
藤袴あらしたちぬる色よりも砕けてものは我ぞかなしき
わが袖は荻の上葉の何なれやそよめくからに露こぼるらむ
かへりてはまた来る雁よ言とはむ己が常世もかくや住み憂き
千載集・雑歌
世の中よ道こそなけれ思ひいる山の奥にも鹿ぞなくなる
栞する楢の葉柴に散る露のはらはらとこそ音は泣かれけれ
ゆふまぐれ霧立ちわたる鳥部山そこはかとなくものぞ悲しき
咲きてこそ消ゆとも消えめ露の間もあなうらやまし朝顔の花
東路や引きも休めぬ駒の足のややなづみぬる身にこそありけれ
なづさむと誰かいひけむ詠むれば月こそものは悲しかりけれ
長き夜を衣うつなる槌の音のやむときもなく物を思ふよ
うき身にはあまりなるまで見ゆるかな匂ひみちたる宿の八重菊
嵐ふくみねの紅葉の日にそへてもろくなりゆくわが涙かな
うき身ゆへ何かは秋もとまるべき理なくも惜しみけるかな