人麻呂歌集
巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田居に雁渡るらし
人麻呂歌集
秋風に山吹の瀬の鳴るなへに天雲翔る雁に逢へるかも
人麻呂歌集
さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空を月渡る見ゆ
人麻呂歌集
妹があたり繁き雁が音夕霧に来鳴きて過ぎぬすべなきまでに
人麻呂歌集
雲隠り雁鳴く時は秋山の黄葉片待つ時は過ぐとも
人麻呂歌集
春草を馬咋山ゆ越え来なる雁の使は宿り過ぐなり
穂積皇子御歌
今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
但馬皇女御歌
言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを
聖武天皇御歌
秋の田の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
忌部首黒麻呂
秋田刈る仮廬もいまだ壊たねば雁が音寒し霜も置きぬがに
巫部麻蘇娘子
誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの妻呼ぶ声の羨しくもあるか
家持
聞きつやと妹が問はせる雁が音はもことも遠く雲隠るなり
家持
ひさかたの雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
家持
雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
高橋安麻呂
雲の上に鳴くなる雁の遠けども君に逢はむとた廻り来つ
安倍虫麻呂
今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける