和歌と俳句

雁 かりがね

茂吉
最上川ながるるがうへにつらなめて雁飛ぶころとなりにけるかも

水上の薙に沈みて雁渡る 普羅

久しくて次なる雁の鳴き渡る 汀女

みな大き袋を負へり雁渡る 三鬼

ゆきずりの老爺と眼と眼雁渡る 三鬼

焼跡にかりがねの空懸りけり 林火

杓の先糞尿迸しる朝の雁 波郷

かりがねの束の間に蕎麦刈られけり 波郷

かりがねやけふはなやぎし蕎麦の紅 波郷

ともしびのひとつは我が家雁わたる 信子

かりがねのしづかさをへだてへだて啼く 信子

雁なくや古りたる椅子にひと日かけ 信子

雁なくや昼の憂ひを夜ももてる 信子

雁ないてふとくづをるるこゝろかな 信子

雁なくや夜ごとつめたき膝がしら 信子

湖もこの辺にして雁渡る 虚子

雁わたる丘のかげより汽車蒸気 楸邨

雁のこゑ遠ざかる夜の線路越ゆ 信子

雁をきく敷布の皺をのばしつつ 信子

かりがねや手足つめたきままねむる 信子

翅触るるまで雁のこゑかたまれり 誓子

雁なくや小暗き部屋の隅の母 信子

切れし下駄すげゐて雁に啼かれけり 

雁仰ぐなみだごころをたれかしる 蛇笏

雁遠し病室の窓跨ぎ出て 波郷

雁渡るをんなの影を地に残し 鷹女

生涯の悪筆雁が鳴きわたる 鷹女

花火にて荒れし空雁鳴きわたる 誓子

玻璃戸すこしひらきゐるらしや雁のこゑ 誓子

まだ聞えねど後続の雁のこゑ 誓子

雁鳴くとぴしぴし飛ばす夜の爪 龍太

渋民村」はかにかく遠し雁鳴けば 龍太

那須の馬雁をあふぎし我を乗せ 青畝

雁渡る一声づつや身に遠く 汀女

丸窓を雁渡る間のありしかな 青畝

由比ヶ濱古濤聲に雁わたる 蛇笏

はつ雁の音にさきだちていたれる訃 万太郎

どぜうやよ子供芝居よ雁の秋 万太郎

雁の音をよそにうたへる機嫌かな 万太郎

かりがねや軍港かくす貨車の胴 不死男

雁の街杖持ち修学旅行団 不死男