雲海を上れる月の翳仄か
月光をふるはす桐の蟲一つ
水月の望の光りに嶽おろし
四方の嶺にひくき菩薩嶺後の月
ゆく路に夕かげの浮く盆会かな
渓川のしのつく雨に盆送り
花淡く茎のかがよふ雨の蓼
梨圃のきよき流れの集果船
早稲の香や老樹の柘榴垣に垂り
高丘にゆびさす雲の秋つばめ
甕にさす實柘榴すこしうちたわみ
山柿のひと葉もとめず雲の中
雁仰ぐなみだごころをたれかしる
極月の白昼艶たつは海の藍
老顔の倦むをしらざるひなたぼこ
降る雪や玉のごとくにランプ拭く
日象と雪山ふかく水かがみ
嶽は午の溪をへだつる雪の面
年惜しむ高層街の夜の雨
冬の墓人遠ざくるごとくにも
冬潮に河口は澄みてみやこ鳥
外濠の鴨を窗邊に年用意
水月に雨がきらりと枯れ蓮
甲斐駒にくれいろひくく宙の凍て
日出の凍雲もなく釈迦ヶ嶽