恍として高波の月はつ昔
お降りや銀座うら舗鶴を吊る
古風なる燭の月光弾はじめ
春めきて眼に直なる麦の畝
春の漁密かに四五尾銀の鮎
嶺とほくかすめども雪又新た
曲江のにごらぬ雨や山ざくら
地に鳴るは三月尽の夜のあられ
わらべらに天かがやきて花祭
ドーム古りあかねさす暮雲春惜しむ
月さして鵞の啼く池畔春の果
産院の沈丁ことに朝曇り
落ちかかる月をめぐりて帰る雁
蝶かけて水瀬はげしくながれけり
子をよびて尾をひろげたる春の鵙
海ぬれて沙丘の風に桃咲けり
渓の樹の膚ながむれば夏きたる
ながめたつ立夏の雲の小神鳴
鋤き代にうす虹はえてはこび雨
アカシヤに夕焼雲のいなびかり
照る雲に葡萄山畑五月来ぬ
夾竹桃廈の石造貧に耐へ
咲きみちて茨一片のちるはなし
昏れがたく濡るる野茨傘に触る
甕に音をしづめて牡丹ちりはてぬ