飛騨人や股稗かしぐかんばの火
人さやぎ飛騨の山稗熟るるとふ
生栗の上の干栗一と莚
美しき栗鼠の歯形や一つ栗
栗の毬山なす道に出でにけり
栃老いて有るほどの実をこぼしけり
あきらめて橡の実ころげ出でにけり
水上に熟るる万朶の山葡萄
いただきの一枚さわぐ紅葉かな
手ぐられて葡萄の紅葉うらがへし
かけ足して直赤らむや唐辛
花芒平湯の径にかぶされり
月に出て人働けり下り簗
下り簗さして径あり石の上
平湯径よべの秋雨湛え居り
露とけて韋駄天走り葡萄蔓
水上の薙に沈みて雁渡る
吹きあがる落葉にまじり鳥渡る
簗崩す夜々の水勢に三日の月
水上を埋めし雲に月かかる
月てるや薙の稗畑まさやけく
月てるや雲のかかれる四方の山
道ばたにくづるる簗の月あかり