ふところに紺の香高し秋袷
つつましや秋の袷の膝頭
簗くづす水勢来りぬ石叩き
とめどなく崩るる簗や三日の月
朱の緒のなほ艶めくや別れ蚊帳
立山に初雪降れり稲を刈る
鳴き負けてかたちづくりす囮哉
厠遠しかのこおろぎの高調子
虫鳴くや向ひ合ひたる寺の門
虫来ぬと合点して居る読書かな
色鳥や末社の並ぶ松の中
かへり来て顔みな同じ秋の蜂
毟らるる菊芳しき料理かな
拾ひ来て畳に置きぬ丹波栗
紅葉折る木魂かへすや鏡石
真盛りの水引を打つ大雨かな
曼珠沙華無月の客に踏れけり
一叢の露草映すや小矢部川
秋草にまじりて高し花茗荷
新涼の雨や芭蕉をひるがへし
葛の葉やひるがへる時音もなし
秋の夜を灯さぬ鮎の名所かな
渋鮎の着きし厨の真暗がり
葉のかげも葡萄のかげも月の下
枯わらびつかんで登る秋の山
秋山やヒカゲノカヅラ露しとど
雨ためて竜胆花を覆へす
稲光り秋の祭が来るちふ
十ばかりありと思へり種茄子
鳳仙花昨日の如く散りてあり
年よりが四五人酔へり秋祭
秋光をさへぎる銀の屏風かな
夜長灯しや只の御茶屋の女人堂
早紅葉の散りてかからぬ墓はなし
鼬川菊つくる家両岸に
日ぐらしに一片の雲岩手山
鰡とんで二上山をいづくとも
花火船かへり来れり鰡の暗
花火殻落ちて浮べり鰡の暗
鮎落つる水来てかしぐ雄神橋
渋鮎を焼く入口の炉をまたぐ
鮎落つる水勢きこゆる二階かな
黄葉して忘られてあり毒うつぎ
赤潮を越してはの漕ぐ鯊の舟
二三尺てづすが見ゆる鯊の潮
大仙陵照らず曇らず鯊釣るる
三たび餌を盗みし鯊の釣れにけり
駅長の歩みきこゆる夜霧かな
炭竃のみな煙りをり秋の雲