寸前や法師蝉ふゆるばかりなり
遅月の照らす衾やひき被り
露けしや松山人も消息なく
くらがりの又降りいだすきりぎりす
栗食むや若く哀しき背を曲げて
秋の風母子相搏あそべるも
うす衾秋の夜雨はそそぐなり
水藷といへども笑棄てざりき
椎栗もただ昏むなり渡り鳥
牛が頚伸ばして濡るる露の秋
東京に妻をやりたる野分かな
焼跡に鯊釣りゐたる憂かりけり
百姓や五つくれたる笊の柚子
芋うるめあまりあたらに仏たち
杓の先糞尿迸しる朝の雁
かりがねの束の間に蕎麦刈られけり
かりがねやけふはなやぎし蕎麦の紅
いつまでも父母遠し新小豆
煮るもののわづかながらや暮の秋
姙りて鵙ふりあふぐこともなし
風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値