法師蝉煮炊といふも二人きり 風生
なきやみてなほ天を占む法師蝉 誓子
法師蝉啼く日となりて妻は亡し 亞浪
法師蝉一つの外はみな遠く 風生
その後の月日たのまず法師蝉 汀女
大寺に又くりかへす法師蝉 誓子
法師蝉正しき声の重なれり 誓子
寸前や法師蝉ふゆるばかりなり 波郷
法師蝉遠ざかり行くわれも行く 三鬼
法師蝉横臥のわが背に沁む 林火
法師蝉自転車やすやす近づき来 波郷
ちぢれゆく女の髪や法師蝉 鷹女
紙屑のごとくに死んで法師蝉 楸邨
また別に坂が斜めに法師蝉 汀女
回想自ら密度に誇り法師蝉 草田男
相逢ふははじめて法師蝉の森 立子
人づては果敢なれども法師蝉 汀女
城山が透く法師蝉の声の網 三鬼
石垣や喪にゐて長き法師蝉 鷹女
我思索つくつく法師鳴くなべに 虚子
北谷に立てば北空法師蝉 多佳子
病妻や肩起し聴く法師蝉 波郷
大空の八隅に奏で法師蝉 青畝
法師蝉町の果てとは思はねど 汀女
忍冬のだらだら花や法師蝉 波郷
法師蝉終の二人になり給ふ 波郷
ねむき一日さめし一日や法師蝉 波郷
法師蝉働き者の患者あり 波郷
胸廓押せば手箱の如し法師蝉 波郷
患者らの灯はやし法師蝉 波郷
約束のなき日は楽し法師蝉 立子
曳売の卵小さし法師蝉 波郷
飯食へば暑くなるなり法師蝉 波郷
禅寺の庭の帚目法師蝉 立子
老をかばふ言葉ばかりに法師蝉 汀女
脱穀となり天仰ぐ法師蝉 青畝
還来の宮につくつくぼうしかな 青畝