和歌と俳句

大野林火

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天高き草山馬を放つべし

草紅葉磐城平へ雲流れ

末枯や湯にあたたむる腰の骨

ねむりても旅の花火の胸にひらく

暁の夢のきれぎれ

法師蝉横臥のわが背に沁む

秋かぜや芭蕉広葉のうらおもて

秋風に雲の日ざしの十字架垂れ

そぞろに秋月雲を出で雲を出で

子の声に応ふる空や柘榴割れ

の街燈に強弱のあるあはれ

出水禍の地区満天の星が占む

仲秋やあかるくとざす昼の雲

ともる窓夜寒ごころをほぐし過ぐ

夜寒の燈襖のなかば下照らす

荒涼として椅子にをり十三夜

後の月野川とらへて離さざる

葡萄摘み神にささぐる酒つくる

草紅葉修道院の四方の山

月光を失へば巌黙すなり

田へなびき大和の薄穂長なる

蔦紅葉巌の結界とざしけり

夜寒人熊野まんだらの前に寝し

まんだらの朱色夜寒をいろどりぬ

夜寒僧狐の鳴くを語り去る