和歌と俳句

大野林火

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湯を浴びる音白樺に秋来り

秋立ちぬ細幹に立つ楢林

還暦の近しや月夜葉が落つる

六十に何の慕情ぞ十六夜

秋の暮藪に山陰線の煙

献燈のつゆけさの堂満たす人

水澄めり聖ひらきしの上に

人の行く方へゆくなり秋の暮

汽罐車の火夫に故郷の夜の稲架

老いゆくを知れとて長き夜はあるか

期すものに老後も初心水澄めり

月さして障子は紙のつゆけさよ

この山の真如の月とひきがへる

回想がちにまんじゆさげまた群がるよ

走馬燈白木の骨に昼を痩す

軒提灯家紋いかつくが来る

くさぐさの盆供みどりのまさりけり

袂に風入れて遊ぶよの子ら

踊りの輪殖ゆるや盆もけふかぎり

踊りの灯木曾は檜山の立ちそそり

よべ踊りけさ朝月夜別れけり

泊らんか橋の袂の秋の宿

人絶えて長き橋長き夜を懸る

片側に濃紅葉置きて火山晴

晩秋や風樹の中の一ベンチ