あくまで秋晴噴煙は雲とならず
海上に出づ鰯雲ことごとく
深む秋雑踏にゐて顔暮れし
わが家さへ逃れたきとききりぎりす
マスカット剪るや光りの房減らし
きりぎりす旅の餉に聞く汝も聞くや
秋雲や磨き丸太の立ち並び
雲中も杉蜩は里寄りに
白切子雲につながる杉の界
盆過ぎや激していそぐ夜の川
夏の果死仕度またわが事よ
戻りしこと妻も気づかず秋の暮
梨を喰み雨夜の話題遠き人へ
一燈過ぎつぎの燈遠し秋の暮
遅く着く人蟲しぐれ乱すなし
濡るるもの皆黒くして秋の雨
霧呼んで力尽くしてみづぐるま
父母迎ふ火に照らされて六十三
書き鈍れば天井秋の風棲むや
風の中の新月九月はじまれり
サイロ入月の団子も招ばれけり
サイロ入はじまる望の夜も近し
サイロ入ひまはりの黄も刻みこみ
立てかけて雨月の傘の皆黒し
夜長し死者と交はる夜もありて