よき月となりしよ佃島更けて
鵙啼きて思はず青き空を見る
秋風や門前にある大欅
鉛筆の落ちて音せず草紅葉
月の下死に近づきて歩きけり
譲らんと思ふ帯あり冬支度
満目の紅葉の中に四季櫻
新涼や山荘の餉の生野菜
一服の緑茶に残暑おさへたり
新しき朝の日ざしよ大花野
夜の玻璃に顔おしあてゝ芒見る
今散りし芙蓉の花に蟻わたる
宵闇や思はぬ雨の降り出でし
晴れわたる朝空早やも赤とんぼ
まひるまの静かな家並秋祭
紅葉山右に左に汽車徐行
からからと祭帰りの人通り
湖の濃紺山の群青蜻蛉の赤
人ごとに思へぬ話秋の風
秋扇紺和服黒帯紫紺
月光や遠のく人を銀色に
わが庭の鶏頭手向け安心す
約束のなき日は楽し法師蝉
もう著いてゐる刻かとも鰯雲
露の世の間に合はざりしことばかり