山冷の芒の遠に子を置きし 汀女
惚れやすきわれを招くよ山芒 不死男
我庭の良夜の薄湧く如し たかし
をりをりに沼輝けば薄また たかし
生ふるまま芒の庭となし置きぬ たかし
瓶の芒野に在るごとく夕日せり 林火
曇る日の川をへだてゝ芒原 占魚
八つ橋のなごりをかしき芒かな 万太郎
薄なびく機罐車が曳く四十輛 楸邨
すゝき原水なき川を月照らす 信子
すゝき野に肌あつきわれ昏れむとす 信子
金の芒はるかなる母の祷りをり 波郷
山越ゆるいつかひとりの芒原 秋櫻子
トロ押しに女もまじる山すゝき 綾子
傷める芒妻の言のみ聞きつつ待つ 波郷
海の荒れこゝまでとゞく芒かな 万太郎
あきかぜの地にみつるとは芒かな 万太郎
一休みしてもすゝきのながめかな 万太郎
畳担ぐ背金の薄の揺れどほし 楸邨
薄見るこの目業火を経て澄みき 楸邨
たよるたはたよらるゝとは芒かな 万太郎
またあとにとりのこされし芒かな 万太郎
山の雨薄の鎬洗ひけり 青畝
また道の芒のなかとなりしかな 万太郎
むだにまた一日すぎし芒かな 万太郎
雪富士のかがやき芒かがやけり 汀女
夜の玻璃に顔おしあてゝ芒見る 立子
芒原熔岩流が凝固せる 誓子
蛇ぬけ道薄が恵那へ吹きあがり 楸邨
芒ぞと早や吹かるるを子にも見せ 汀女
弟子訪うて真一文字に芒置く 不死男
能登島は雨に見えざる芒かな 青畝
惚れやすきわれを招くよ山芒 不死男
一叢が竪琴なせる芒かな 青畝