和歌と俳句

久保田万太郎

9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

水引の花のつゆけき門火かな

盆暑しかてゝくはへし大日覆

風すぎるほど風のあり墓詣

七転び八起きかなしき墓参かな

橋いくつこえて来にけむ墓詣で

あさがほのあはれのまはり燈籠かな

遠浮ける雲に日のあり秋の蝉

萩のはや花をつけたる残暑かな

庭下駄を雨ぬらし去る残暑かな

新涼やとり散らしある二三冊

一とむかしふたむかしまへ稲びかり

あさがほやとめればラヂオすぐとまり

水いろと白とばかりやあさがほの

あさがほのむらさき咲けるまことかな

天の星地のあさがほのつぼみかな

あさがほにとほく松風落つるかな

水引のまつはりあへる機嫌かな

お十夜に穂の間にあひし芒かな

海の荒れこゝまでとゞくかな

あきかぜの地にみつるとは芒かな

一休みしてもすゝきのながめかな

ふるさとの月のつゆけさ仰ぎけり

縁さきに萩波うてる無月かな

襟もとを気にするくせや秋袷

秋風の羽織律儀に著たりけり