和歌と俳句

秋元不死男

口中へ涙こつんと冷やか

長考をロダンは彫りぬ秋の風

こほろぎに破れ綴らす破帽子

マロニエの巴里の実植うる秋の声

鳴き残るすいとの声が筆の先

水澄みて亡き諸人の小声かな

てのひらに時は過ぎゆく唐辛子

秋扇影はつかめぬ膝がしら

頼りなき菊人形と別れけり

火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり

ごんごんと黄泉路の下り簗激つ

かたまつてにはとり昏るる門火かな

惚れやすきわれを招くよ山芒

茸狩やけもものみちの急ぎやう

やや寒し頬突いて出す紫煙の輪

秋風を廻して廃れ糸車

麻酔さめて昼の月ゐる秋の空

ぼろぼろの秋の雲ゆく手術痕

ねたきりのわがつかみたし銀河の尾