みかんむく指にのこりし寒さかな
浅草の秋はなやかにゆくをみよ
このところ豆腐づくめや暮の秋
棚経の僧に夕かげそへるかな
燈籠に海山とほきおもひかな
黄泉の火をやどして切子さがりけり
ひぐらしやいよいよ雨のふりつのり
秋ぜみの耳をはなれず鳴きにけり
日曜のまためぐり来し芙蓉かな
赤坂福吉町芙蓉の咲けるかな
姉夏子いもうとくに子芙蓉咲く
日曜は人通りなき芙蓉かな
あさがほやはやくも夢で逢ひし縁
またあとにとりのこされし芒かな
しらつゆのうつりゆく刻うつしけり
露に、つゆに、露にうもるゝものばかり
待宵やかの実朝の伊豆の海
石段を下りわづらふや今日の月
十六夜やおもひまうけぬ雨となり
ひやゝかにふたゝびえたるいのちかな
息ぎれのしづまるまでや秋の風
秋風や花鳥諷詠人老いず
病室のあけくれなれど秋の暮
秋の暮ひそかに猫のうづくまる
月いまだ山をでて来ず秋の暮
病院がわが家の秋の夕かな
庭木刈る氷川神社のまつり来と
庭木刈つてみゆる東京タワーの灯
ぼけの實の二つ三つ四つ秋しぐれ