秋茄子ややさしくなりし母かなし
鎌倉の空の青さよ曼珠沙華
コスモスの花ゆれて来て唇に
ハンカチを干せばすなはち秋の空
高原の霧が梳き過ぎ吾亦紅
母と寝て古風な話鉦叩
足音の正しく彼女秋日和
蜻蛉のおのが影追ふ水鏡
秋空へ大きな硝子窓一つ
きちきちの音秋晴にしみとほり
門札のかすれて読めず草紅葉
秋風や浅草はいつも祭めき
拾ひたる日向の栗のあたゝかし
母君の客よろこびてきぬかつぎ
朝寒やまたゝきしげき佛の灯
露けしと閂かけて夫もどる
はつきりと鉦叩又虫時雨
宿とるや障子の外の葉鶏頭
色鳥の来しよと主婦や襷かけ
鞍馬路の野菊みぞそばきりもなや
肩こるをおぼえて十年冬支度
秋風やうれしきことに涙ぐみ
夜寒の戸締めに立ちゆく独言