和歌と俳句

三橋鷹女

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

陸に降る秋の霖雨は海に降り

秋雨に濡るる海原みつつ濡る

秋の浜女が欷くゆゑ鳶が啼く

秋浪や欷くとき歪む唇の紅

秋旅のほろほろかなし磯に出て

秋浪も吾を呼ぶこゑも昔かな

秋浜は歎きの鳶と浪ばかり

霧雨を来て八木節を唄ふのか

きもの著て君よ秋かぜが恋しいか

何といふ月の繊さよ夫に添ひ

かまつかの四隣あくたの如し忌む

糸萩や古代紫世に埋もれ

さやうなら霧の彼方も深き

の中靴音急ぐは妻子へか

あきかぜに狐のお面被て出むや

芋の葉の露や俳諧かをり初む

ちぢれゆく女の髪や法師蝉

泣きわめく児を綾に負ひ芋嵐

三十年前にもここに鰯雲

吾亦紅夕べは鵙のふくみ音に

昏れて女ひとりは生きがたし

が啼く無名作家の我が耳に

つばさ無きかなしさに啼き去られ

友らみな白髪をまじへ銀木犀