あはれ来て野には咏へり曼珠沙華
紫苑高し軍歌をうたふ母と子に
紫苑咲き戦場美談子と読める
みづひきに秋は泪ぞふり落つる
新涼の小さき乳房をもつわれは
ものの翳まぶたを去らず秋を病む
色鳥に女かなしびの眉を描く
山のお日瞼にあつし藤袴
秋雲は湧けり黒髪丈なせる
萩白しえんまこほろぎ鳴きひろごり
萩白しまひるは堪ふるさびしさに
萩打つてあきらめられずきのふけふ
萩こぼれ一日の業をわが終へぬ
萩こぼれ生計のそとに今ぞ佇てり
萩白し夜をねむらうとする努力
霧降れり夕べは白き萩の上に
霧の夜に堪へて化粧へり濃き化粧
しんしんと夜はかまつかの燃ゆるなり
きしきしときしきしと秋の玻璃を拭く
虫籠を守りをり機翼来り去り
ふた親のある身秋風ともに流れ
鵙昏るる頬けたのあざは塗りつぶし
えぞ菊に平仮名を憶ひ出さうとする
虫鳴けば横顔征きし弟を