三橋鷹女
櫓がきしむ野分の底も強野分
秋風が吹き分く老の髪密に
からかさにばつたを入れて長い人生
秋蝉の鳴くひきしほのごとくなり
湧きに湧き怺へに怺へ緋のカンナ
街道に咲く痩カンナ痩老婆
芒野に欠け皿ならべなみだのたらちね
杖となるやがて麓のをみなへし
巣ごもれり細眼に蘆を刈り揃へ
火祭のしんがりを行くちちとはは
山中に人を呼び入れ紅きのこ
曼珠沙華うしろ向いても曼珠沙華
東西南北いづこも濡れる濡れ桔梗
雁渡る賽の河原に石積まれ
生み月や鬼灯に灯がともり初め
どんぐりの樹下ちちははのかくれんぼ
千の虫鳴く一匹の狂い鳴き
影を織る水引草の夜明けかな
骨透いて虫よ不眠の夜が来る