和歌と俳句

三橋鷹女

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われを囲む若者ばかり星祭

老いしとおもふ老いじと思ふ陽のカンナ

老いぬれば吾が身丈低しカンナより

胸深く朽ちよカンナを供花となし

一集を編むことかたし野分跡

競ひ咲く花にはあらず芙蓉咲く

蟲時雨わが哭くこゑもその中に

ぐみ一樹ひそかに派手を尽しけり

抹殺の朱筆をおきてさわやかに

へちま垂る地異天変のあらざれば

糸瓜垂れ古き女のむれに入る

水に来ておのれ映れり秋の蝶

わが死後やかくて夜更けの走馬燈

がくぜんとや不貞寝の床を出て

かなかなや指組めば似る晩祷に

響なし音無し既に枝垂萩

十三夜月に孤りの鼻梁焦げ

葉ばかりのカンナとなりぬ祷りつつ

爽かや火を噴く山の頂も

はぎすすき地に栖むものら哭き悲しむ

瞳をつむり一語一語がとなる

秋かぜの残る一燈消して寝る

菊挿すと肉親の墓はごしごし洗ふ