和歌と俳句

橋本多佳子

いまは花野決壊の傷天に懸け

わが比叡比良と嶺わかつ秋の空

はるかに光る秋の川来るか行くか

不断燈鬱々夏を遣り過す

北谷に立てば北空法師蝉

仏燈や火蛾の翅粉をただよはす

老いて醜き白川女頭に秋草

白露行身袖ひつかく有刺線

石窟仏蜂の出入に有刺線

秋晴より蜂がかへり来石窟佛

石窟仏秋蚊に女血たつぷり

なきがらの蜂に黄の縞黒の縞

秋晴に仏の石窟口ひらく

岬に土ありて藷づる引けば藷

礁の道女藷担く肩かへては

子の干柿口より享けて口濡れる

廃馬ならず花野に手綱ひきずつて

踏みゆるめばすぐに低音稲扱機

豊年や走れば負ひ子四肢をどる

三つ星がオリオン緊める新ラ刈田

乳母車坂下りきつて秋天

噴水を白らめ川霧とどこほる

走馬燈昼のからくり風にまはる

九月来箸をつかんでまた生きる

九月の地蹠ぴつたり生きて立つ

虫のこゑベッド鉄脚つつぱつて

ちちろ虫寝よ寝よとこゑ切らず

深青の天のクレパスうろこ雲

人恋へり鱗つばらにうろこ雲

起きて見る木床秋日が煮つまつて

軽々と抱きて移さる秋日和

紅き実がぎつしり柘榴どこ割つても

深裂けの柘榴一粒だにこぼれず

雀・仔猫病院やつと露乾く

点滴注射遠く遠くに木の実落つ

露ベッド人の言葉を瞼で享け

雁のこゑわが六尺のベッド過ぐ

柿・栗吾にもたらし食べよ食べよ

秋の蝶病院のどの屋根越え来し

病室に柿色かたまる柿もらひ