和歌と俳句

橋本多佳子

をどり太鼓すりばち沼に打ちこんで

をどり衆地上をよしと足擦つて

をどりの輪つよし男ゐて女ゐて

かの老婆まためぐりくるをどりくる

夜の土に腰唄はずにをどらずに

尽きぬをどりおきて帰るや来た道を

をどり太鼓びんびん沼がはね反す

子が持つて赤蝋赤光地蔵盆

わが燭の遅れ加はる地蔵盆

曼荼羅の虫の音崖の下に寝て

郭公に刻をゆづるよ暁ひぐらし

試歩を寄す秋天ふかき水たまり

翅立てて蝶秋風をやり過す

蜂さされ子に稲を刈る母の濃つば

月遅し木星が出て海照らす

流れ急どかつと曼珠沙華捨つる

障子貼るひとり刃のあるものつかひ

障子貼る刃ものぬれ紙よく切れて

鳥渡る群ばらばらに且つ散らず

猫走る白斑野分の暮れんとして

野分の燈鳴かぬちちろがうつむきて

うろこ雲声出すことを禁じられ

いのち守る秋の簾を地上まで

月祀る起きて坐りて月に照り

蜻蛉の翅枯葉のごとく指ばさむ

指の間に枯葉の音す蜻蛉の翅

角伐り場土壇場へ鹿追込めり

角伐り場血ぬれて土が傷つけり

角重し生きし鹿より伐りとつて

鋸の歯に鹿角最後まで硬し

走り去る男鹿男の角失ひて

斎かれて鹿の伐り角枝交す

角伐り場解きたるあとは野の平ら

角伐り場虹がかかりて凄惨に

犠牲の鹿投げ縄からみなほ駆ける

熟柿つつく鴉が腐肉つつくかに