雨来り鈴虫声をたたみあへず
こほろぎの啼く夜の星の躬に近し
桂紅葉原始林帯など冷たき
青毬を布くスロープの霧残す
暁のかなかな三日月われをのぞき落つ
虫幽かなればおのづと人語澄む
コスモスをうまごに折りて我も愉し
夢殿の清閑桜もみづりぬ
金風の翳す仏顔ほのに笑む
白萩のみだれ雨ひく土昏し
山の田の白穂もなくて刈る日来ぬ
霧さがる谷間に粟を摘み暮らす
かまきりの玻璃戸をのぼり雷うかがふ
赤のまま摘めるうまごに随へり
暇あり西日となりし干し蝗
秋風の厨ゆたかに今日も暮れぬ
積雲の崩えがちに南瓜実りたり
蝗ばつた彼岸の野川流れたり
迎火やほのに霧らへる竹の奥
熟れ稲の香のそこはかと霧は濃き
秋の虹二川夕浪たてにけり
露時雨川音しぐれ副へりけり
秋立てる雲の穴目の藍に描く
妻死んで虫の音しげくなりし夜ぞ
朝顔のうつろひやすく灼け来けり
法師蝉啼く日となりて妻は亡し
朝寒くなりぬ箸とる汁の澄み
夕百舌に野川溢るる雨となり
烏瓜赤しと子らの触れゆきぬ
久に逢ふ顔々よ菊白く赤く
子爪このごろ親指にのみ秋の風
二三日晴れ松茸の膳に上る
一粒一粒柘榴の赤い実をたべる
もみづれる木によ苔布く寂光土
十王の笑むとし見れば木の実落つ
朝顔の朝永きにも亡妻を憶ふ
朝顔の籬外へ垂れて人ゆき次ぐ
北天の稲妻に月など明かき
柿の味一片も歯に固きのみ
苦笑ひして日が落つる野分なか
鶏頭の倒れて燃ゆるうらがなし
子らの朝顔咲けば楽しく時経ちぬ
朝顔をつかみ蟷螂雨うかがふ
天神様の祭銀杏が実を撒ける
新涼の朝顔竹をのぼり咲く
秋深くなりて不気味な朝焼けす
秋冷えの目覚め誘うて啼く雀
柿喰ふや鵯の啼く音は寒しとふ