和歌と俳句

蟋蟀 こおろぎ ちちろ虫 つづれさせ

爐におちしちちろをすくふもろ手かな 蛇笏

住みかはる窓の灯色やちちろ虫 爽雨

このあたり母は坐りしちゝろ啼く かな女

こほろぎに鳴かれてばかり 山頭火

たのしさはふえし蔵書にちちろ蟲 秋櫻子

酔うてこほろぎと寝てゐたよ 山頭火

蟋蟀の親子来てをる猫の飯 風生

こほろぎに寝ねがけの歯をみがきけり 草城

朝月にこほろぎの声もととなうた 山頭火

こほろぎがわたしのたべるものをたべた 山頭火

鳴くかよこほろぎ私も眠れない 山頭火

こほろぎよ、食べるものがなくなつた 山頭火

しづけさはこほろぎのとぶ 山頭火

ひとりで酔へばこうろぎこうろぎ 山頭火

草もかれゆくこうろぎとびあるく 山頭火

こうろぎこうろぎ風鈴が鳴る 山頭火

こほろぎよあすの米だけはある 山頭火

月が山の端に安宿のこうろぎ 山頭火

本箱を積んでちゝろの社家広し かな女

茂吉
あはあはと 光のさせる 草むらに 山こほろぎは 夢のごとしも

茂吉
よもすがら 野分の風は 吹けれども 蟋蟀のこゑ やむときもなし

夜のふかくこほろぎがたたみのうへに 山頭火

こほろぎや米買うて来し小風呂敷 月二郎

茂吉
夜の土に 鳴く蟋蟀の しげきころ われもこの山 くだりて行かむ

古羽織着る夜もありぬつゞれさせ 淡路女

こほろぎの谺かへしの板間かな 茅舎

こほろぎに拭きに拭込む板間かな 茅舎

粥鍋のこほろぎ追ひて食べにけり 月二郎

ある夜とみにこほろぎしげく兵征けり 悌二郎

蟋蟀や織りやめし灯を提げて出る 波郷

こほろぎの啼く夜の星の躬に近し 亞浪

鳴く音なり蟋蟀くぐり出くぐり入り 草田男