和歌と俳句

川端茅舎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

今朝秋の露なき芭蕉憂しと見し

露の葛風一面に丘を超え

あな白し露葛の葉のうらがへり

白芙蓉暁けの明星らんらんと

八重葎白露綿のごときかな

月の面のきずかくれなし露の空

まつ蒼に朴立てりけり露の空

一と筋に露の空ゆく鐘の声

曼珠沙華今朝出頭す二寸かな

三日はや一尺五寸曼珠沙華

また微熱つくつく法師もう黙れ

秋風やささらの棕櫚の蠅叩

野分して芭蕉は窓を平手打ち

眼を射しは遠くの露の玉一つ

秋風や稚子大声に待つ門に

師ゐますごとき秋風砂丘ゆく

秋風に我が肺は篳篥の如く

秋風に砂丘に杖を突刺し立つ

こほろぎに拭きに拭込む板間かな

月出でて四方の暗さや鉦叩

ふくやかな乳に稲扱く力かな