朝顔に夢中になりし法師かな
葛の花と聞きしが淋し下山道
秋風や右に勝れし左の眼
牛の舌に水鉄のごとし秋の暮
秋風や酒量あがりし美少年
草木慟哭昇れる月の赤さかな
秋雨や佛と住みて深庇
蟲鳴くや衣桁の袈裟の落ちゐる
秋雨や温泉の香のつきし茗荷汁
陰膳にこたへし露の身そらかな
日輪の寂と渡りぬ曼珠沙華
鶏頭や温泉煙這へる磧
曼珠沙華印結ぶ指ほどきけり
露の空薔薇色の朝来りけり
露径深う世を待つ弥勒尊
夜店はや露の西国立志編
露散るや提灯の字のこんばんは
巌隠れ露の湯壷に小提灯
夜泣きする伏屋は露の堤陰
親不知はえたる露の身そらかな
白露に阿吽の旭さしにけり
白露に金銀の蠅とびにけり
露の玉百千万も葎かな
白露をはじきとばせる小指かな
白露に鏡のごとき御空かな