一夜明くれば俄然として花の流れかな
梅咲いてゐる要塞地帯かな
兵営の裏の草屋や赤椿
鶯や豆腐沈みし水の底
燕に波の高さや海雲汁
三の午椿拾ひて遊びけり
花鳥に病さだめし弥生かな
うららかに波は膨れて遊びけり
船橋の舟を数へてうららかな
春雨や泥にまみれし大鮪
空の濃さに霞の色もありにけり
鉄橋の下そこばくの春田かな
風の中に日の色すわる椿かな
春暁や綺麗に掃きし椿の根
品川や茶の間の奥の春の海
春月や灯つらなる一と岬
行春や灯は常明の観世音
春宵や畳の上の米俵
花の冷え蛙も鳴かぬ夜なりけり
春宵や旅立つ母にこれの杖
砂利舟の底の浅さよ梅日和
焼くる野を貫きて水こんこんと
行春や芸に身を売る膃肭臍
カアさんといひてみてをり梅の花