和歌と俳句

ニコライ堂

茂吉
入りかかる日の赤きころニコライの側の坂をば下りて来にけり

牧水
ニコライの 大釣鐘の 鳴りいでて 夕さりくれば つねにたづねき

晶子
わが住むは醜き都雨ふればニコライの塔泥に泳げり

晶子
春の雨ばらの芽に降りニコライへ明神の鳩遊びにぞ来る

茂吉
きさらぎの天つひかりに飛行船ニコライ寺のうへを走れり

憲吉
濠の上を砂吹きゆけば樹末よりニコライ堂は高く見えたり

憲吉
ニコライの屋根見てあれば樹のかなた学校のベル鳴りて居るかな

晶子
ニコライのドオムの見ゆる小二階の欄干の下の朝がほの花

茅舎
ニコライの鐘が鳴り出すかな

晶子
ニコライの四壁の上の大空を雲ぞ流るる覗きに寄れば

晶子
ニコライの塔のかけらにわれ倚りて見る東京の焦土の色

晶子
ニコライも既に廃墟となりぬれば鐘おとづれず病院町に

白秋
ニコライ堂 円頂閣青さび 雲低し この重圧は 夜にか持ち越す

白秋
ニコライ堂 この夜揺りかへり 鳴る鐘の 大きあり小さきあり 小さきあり大きあり

波郷
ニコライの鐘の愉しき落葉かな

波郷
風花やをどりて鳴れる四つの鐘