和歌と俳句

九十九里

左千夫
九十九里の 波の遠音や 降り立てば 寒き庭にも咲きにけり

左千夫
春早き 南上総の 旅やどり 梅をたづねて 磯に出にけり

左千夫
九十九里の 波の遠鳴り 日の光り 青葉の村を 一人来にけり

牧水
朝浪の つらなり立ちて 九十九里の 煙らふ岸を 漕ぎ出づる船

牧水
なびきあひ くだけてひろき 夕凪の 九十九里が浜の 浪のましろさ

牧水
ながながと 真澄みとよもせり 夕凪の 九十九里が浜の 沖のうねりは

牧水
夕月の ひかりとぼしみ 九十九里の 空ひくきところ 星しげく居る

冬濤の濤垣水平線も無し 草田男

左右の果冬濤深く陸にあり 草田男

冬濤幾重階為す九十九里の間 草田男

冬浜を一川の紺裁ち裂ける 草田男

寒鴉啼きて沖には国もなし 草田男

冬濤のひびき破船のしじまのみ 草田男

九十九里浜南白亀川口梅雨はれぬ 波郷

秋の風海旋車は燃ゆることもなし 楸邨

九十九里の一天曇り曼珠沙華 楸邨

一荷づく九十九里浜の汐を汲む 三鬼