和歌と俳句

若山牧水

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吹く風の しくしく暑し 砂畑の 黍たつ畔に 寄りていこへば

道ばたの 蘆のしげみに こもりゐて 啼く行々子を 立ちて聞くかも

はちす田の 花かげにとびし 水鳥を 鴫とおもふに ふたたび飛ばず

とほ見には さびしかりしか 蓮田を うづめて咲ける くれなゐの花

砂山の かげの入江の 花はちす しづけき蔭に 鯔の子のとぶ

海人が家の 蚊やりのけぶり なびきたる はちす田の花は 静かなるかも

浜つづき すな地の庭に のびいでて くきも真赤き 鶏頭の花

朝浪の つらなり立ちて 九十九里の 煙らふ岸を 漕ぎ出づる船

あかつきの 沖津辺かけて たつ霧に 茜さしつつ 船こげる見ゆ

うち撓み 寄れるうねりの ひとところ 白むと見れば 裂けてくづるる

起き伏せる 砂山つづき はるかなる ひとところ千鳥 群れて立つ見ゆ

砂浜の ひろきがなかに くだかけの 啼く声あがる 海人が伏屋に

夏ばかり 居るとふ鳥の いまだゐて 白き羽根かはし 鯔の子をとる

砂のごと ちひさき魚の かず知れず 泳ぎてぞをる 川口の汐に

穴つくる 小蟹がふりの 小ざかしく おもしろき見つつ 時を忘れたり

この小蟹 逃げおほせたりと 思へかも 砂をかづきて かしこみてをる

やとばかり 蟹に声かけ 驚きつ わらひいだして 蟹を追ふなり

思はぬに わが足もとゆ まひ立ちて 浪を越えつつ 千鳥啼くなり

まひわたる 千鳥が群は 浪のうへに 低くつづきて 夕日さしたり

引く浪の あた織りなせる 濡砂地 影をみだして 千鳥群れたり