旗雲の ながれたなびき 朝ぞらの 藍のふかきに 燕啼くなり
まひ降りて 雀あゆめる 朝じめり 道のかたへの つゆ草の花
駿河なる 沼津より見れば 富士が嶺の 前に垣なせる 愛鷹の山
愛鷹の 真くろき峯に うづまける 天雲の奥に 富士はこもりつ
門出でて 向ふ稲田の 千町田の 垂穂の畔に 彼岸花咲けり
柿紅葉 上枝はいつか 散りすぎて 百舌鳥ぞ来て啼く おほかたの日を
散りうかび またくは濡れぬ 桜木の もみぢは流る 門のながれに
綿雲の 四方を覆ひて おぼほしき けふくもり日の 庭のもみぢ葉
花を多み 真赤に見ゆる 門口の 山茶花をうとむ 朝な朝なに
愛鷹の 襞のもみぢの つばらかに 見ゆる沼津の 秋日和かな
わが門に ならぶ桜の うすもみぢ 久しと見つれ いまは散りたり
庭石を 斜にすべれる 真冬日の 日かげは宿る 薮柑子の実に
実をひとつ ふたつ持ちたる とりどりの 藪柑子の木 ならび生ひたり
葛の葉の もみでし色の さびはてて 露おきわたす 道のかたへに
道のはた 野菊にまじり 露草の 散りのこりつつ 木瓜かへり咲けり
下草の すすきしめれる 山あひの 小松が原に 鶲啼くなり
ゆく道の 山の根ぞひに たちならぶ 冬の日の松に 枯れし葉おほし
桑の木の 老いて枝張る こずゑより 啼きてとびたつ 頬白の鳥