鵙ゆきて稲田の幣にとまりけり
しづけさにたたかふ蟹や蓼の花
雀らの乗つてはしれり芋嵐
蟋蟀や織りやめし灯を提げて出る
花圃の秋コートのかれらあそぶみゆ
はたはたや体操のクラス遠くあり
秋の暮業火となりて秬は燃ゆ
秬焚や青き螽を火に見たり
一抹の海見ゆ落穂拾ひかな
垂れてゆく落穂を蓼に触れしむる
菊挿すや晨の部屋に菊の塵
芋掘りて疲れたる夜の筆づかひ
ある宵の菊のおごりにひとりゐぬ
菊の前夜はつどひ来てペン執るも
菊古ればもて来し友はもてゆきぬ
つめたき柿に夜更の慾足りぬ
畦木立ち落穂拾ひがひろひ立つ
菊の香にきよらに寝たり朝ちかく
我が肌抱きめざめぬ菊さむく
新涼の書をよみ電車街に入る
新涼の書肆水うてり人のひま
颱風や学生かへり街ゆけり
熱帯魚秋はどこにも菊咲けり
噴水の燦たり樹々はいま黄ばむ
鰯雲鳶をはなてり園黄ばむ
木のかげが舗道をかざり秋日落つ
朝刊の冷きがごとく廈冷えぬ
秋日燃え落つる市電に立疲れ
秋日没る五階にありて立眺め
鰯雲橙青く鬱と成る
橙が青し父と子煙草すふ
橙園あをし嫂に征きしひと
明治節乙女の体操胸隆く
乙女の体操夫人ら秋日ひさに浴び
颱風のカンナ吹き折れポスト立つ
颱風に吹かれ吹かれつ投函す
寝かへれば秋風の音吹きかはる
霧降れりその夜鏡にうつる四肢
霧ふかし主婦と茶をのむ夜半のとき
秋風に立ち号外を日々手にす
秋の日の裸身あゆめる朝一瞬
秋日闌け金糸雀呆と糞まりぬ
吹き起る秋風鶴をあゆましむ
露葎軍靴のあとを日々とどめ
秋日暑車窓を覆ひひた帰る
直帰る秋日の艫にうづくまり
稲田照り真向きし城へ直帰る
兄と会ひつ城の石垣の秋おどろ
わが手に穂草兄は軍刀のことのみ言ふ
兄弟の別れ木実踏去り顧ず
団栗を混へし木々ぞ城を隠す
人幼く木に名を刻む我は無花果に
兄の子を抱けば鵙鳴けり言葉あらず
青蜜柑食ひ父母とまた別れたり
秋の宿松籟の下に寄り合へる
嬰児の声秋風の音かはる間に