和歌と俳句

石田波郷

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古郷忌の風あそばすも古簾

一枚の秋の簾を出でざりき

露の夜や出湯に泳ぐ痩父子

鶏頭の澎湃として四十過ぐ

鶏頭に一日執着す獺祭忌

鶏頭を若者をすでにおそれそむ

鶏頭に寧し痩せ夫肥り妻

露葎バタヤの籠の透けて過ぐ

露けさの灯いれたりいなりそば

随へり草虱つけし妻の肘

早稲架けて子供ばかりの世の如し

秋風の歯朶うちさやぎ山香風呂

残る蟲寝釈迦山昏れはてしかな

食ふや電柱の辺の富士あはれ

捨て猫の舌の長さよ葛の花

起ち上らざるもの胸に萩起す

芋嵐貝殻山をけづり吹く

栴檀の實の垂るる日の城見たし

腿立てて自転車とどめ露の海女

喪の家の吹かれ転べる箒草

雨がちに海女の遅れ田稗多し

日照雨来や峡田は稗を躍らしめ

曼珠沙華稲架木を負ひてよろめき来

巌蔭にばかり嵐の猫じやらし

萩寧し妻の人形作りなど

啄みてただ秋風の烏骨鶏

ひびく深大寺蕎麦冷えにけり

犇きて流燈の岸とおもほへず

流燈に奪ひ去らるるもののあり

流燈の眠らんとして熄まざりき

川並二人跼み話の野分かな

安芸の海や海女の胸うつ葛風

嫋々とラヂオ歌へり胡麻叩

秋の蝉檜山の西日はやあかし

秋風の北空蒼し戸田峠

秋風や火床やすめたる車鍛冶

水甕にあふるる水や菊作り

秋の蝶甘酒糀ほの白し

行く秋や火の見の下の綾瀬川

たらたらと洲崎の灯あり鯊の潮

椎拾ふ袋たれたりのこゑ

きりもなく独活群れにけり秋の風

酔ややに虫の夜の墓地はづみゆく

雨の虫遠くに妻が嚏りぬ

萩寺の夜雨のに濡れしのみ

森を出て会ふ灯はまぶし轡虫

われとわが影垣間見ぬ乱れ