古郷忌の風あそばすも古簾
一枚の秋の簾を出でざりき
露の夜や出湯に泳ぐ痩父子
鶏頭の澎湃として四十過ぐ
鶏頭に一日執着す獺祭忌
鶏頭を若者をすでにおそれそむ
鶏頭に寧し痩せ夫肥り妻
露葎バタヤの籠の透けて過ぐ
露けさの灯いれたりいなりそば
随へり草虱つけし妻の肘
早稲架けて子供ばかりの世の如し
秋風の歯朶うちさやぎ山香風呂
残る蟲寝釈迦山昏れはてしかな
柿食ふや電柱の辺の富士あはれ
捨て猫の舌の長さよ葛の花
起ち上らざるもの胸に萩起す
芋嵐貝殻山をけづり吹く
栴檀の實の垂るる日の城見たし
腿立てて自転車とどめ露の海女
喪の家の吹かれ転べる箒草
雨がちに海女の遅れ田稗多し
日照雨来や峡田は稗を躍らしめ
曼珠沙華稲架木を負ひてよろめき来
巌蔭にばかり嵐の猫じやらし
萩寧し妻の人形作りなど
啄みてただ秋風の烏骨鶏
鵙ひびく深大寺蕎麦冷えにけり