昼の虫われに永仕へせし妻よ
古郷忌や几かいだく独活のかげ
補聴器の影ひく紐やきりぎりす
鯊釣に雨白水輪黒水輪
君が居へ小屏風おくる萩の秋
鵙鳴いてにはかに昏し黙祷す
つがひ蜻蛉翔ちし羽音も峡の音
訪へば友の裸が若し葉鶏頭
病妻や肩起し聴く法師蝉
一瑕瑾なし野分後の芭蕉の子
この秋の肋の痩せや猫じやらし
菩提樹下の荒草を抜く兄わが為め
汗もて買ふ「靖国の楯」母が為め
柿食ふや命あまさず生きよの語
零余子に手伸べて巴里より帰り来し
仏蘭西にかまつかはなしと通訳す
巌が根に灯す流燈匂ひけり
峡のひと移公子が繊し流燈会
巌の上に流燈見つつ他郷なり
巌下りて流燈の場露けしや
煮染芋ストマイ痺れ顎にあり
露の萩分け来て病める脛痒し
嵯峨菊やまなじり酔うて女どち