石田波郷
敗戦日団扇を胸に当てをれば
秋風や楢の秀めぐる黄金蟲
見舞びと橡の実すでに拾ひ持つ
鳥渡る尾長らは森かいくぐり
患者らの朝は声高女郎花
今生は病む生なりき鳥頭
葉鶏頭われら貧しき者ら病む
同病の集りてわらへる子規忌かな
筆柿や面会謝絶いつまでも
黄菊白菊自前の呼吸すぐあへぐ
一枝呉れし清瀬の柿は禅子丸
髭かなし清瀬の柿の七衛門
瓶の菊夜は窓まで闇が来る
通草貰ひて楽しと思ひ憂しと思ふ
鉢の菊蕾びつしりかな女逝く
病院をよぎる登校児鳥渡る
露の登校児歩を留め考へ歩き出づ
昨日より今日むさぼりぬ次郎柿