和歌と俳句

きりぎりす はたおり

きりぎりすこの家刻刻古びつつ 誓子

海に向くきりぎりす籠夕日さす 楸邨

翅ふるや霧笛のひまのきりぎりす 楸邨

くらがりの又降りいだすきりぎりす 波郷

きりぎりす青春なくてなきゐたり 誓子

きりぎりす空腹感に点を打つ 三鬼

家を出て飲めばそぞろやきりぎりす 波郷

はたおりのとぶとみるよりなほあがる 蛇笏

川波のひたすらなるにきりぎりす 誓子

きりぎりす年年歳歳土同じ 誓子

きりぎりす光擾乱なせる中 誓子

きりぎりす夜中の崖のさむけ立つ 三鬼

一湾の潮しづもるきりぎりす 誓子

きりぎりすいぶかりきくに波幾重 秋櫻子

きりぎりす見るは巌のみ又波のみ 秋櫻子

崖下に道なし崖のきりぎりす 波津女

ひかりもの憂しこの世もの憂しきりぎりす 誓子

きりぎりす同音重ね桂月調 草田男

伏目して少年がきくきりぎりす 楸邨

大木の肌も真昼やきりぎりす 龍太

海からの煙のにほひきりぎりす 草田男

補聴器の影ひく紐やきりぎりす 波郷

わが影の我に収まるきりぎりす 楸邨

昼雨に玉蜀黍畑のきりぎりす 蛇笏

力あるロダンの言葉きりぎりす 青畝

きりぎりす亡き児の声の謡かな 青畝

わが家さへ逃れたきとききりぎりす 林火

きりぎりす旅の餉に聞く汝も聞くや 林火

きりぎりすいなさ白波松の上に 悌二郎

きりぎりす汝が焼かるる骨にまで 林火