峠より水走らして代つくり
一歩にてをどる釣橋蛍の夜
鯵の蠅海士の眉間を打ちにけり
水鉢に晩夏の光さしにけり
きりぎりす亡き児の声の謡かな
赤のまま赤人も居し故郷かな
霧とびて馬籠の菊もうつぶしぬ
秋の日のうつろひがちに室生寺
水郷に斎竹を挿す秋祭
汐さやぐ汀の灯籠十三夜
攻窯の火にあたたまる夜寒かな
横手より来る稲舟も夕ごころ
真下なる波止へ折れゆく冬山路
神饌の放つておかれて神の留守
わたつみを抱く陸めける冬の雲
丹生川の底見る冬の山のみち
明ぼのの芥とや見む浮寝鳥
おびえ翔つ鴨あり羽音天に満つ
大ベルを吊す入口年の市
こぼれゐし歌留多順徳院の歌
地吹雪に天狼呆け失せにけり
水仙の島みち不意に海に落つ
文机に天神花の映えにけり
芹の水葉丹生の荒瀬に合はむとす
踏青や菅家謫居を心とし
海暮れて白魚月夜くまなけれ