和歌と俳句

阿波野青畝

甲子園

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

峠より水走らして代つくり

一歩にてをどる釣橋の夜

鯵の蠅海士の眉間を打ちにけり

水鉢に晩夏の光さしにけり

きりぎりす亡き児の声の謡かな

赤のまま赤人も居し故郷かな

とびて馬籠の菊もうつぶしぬ

秋の日のうつろひがちに室生寺

からす瓜瓔珞となり高野道

水郷に斎竹を挿す秋祭

汐さやぐ汀の灯籠十三夜

攻窯の火にあたたまる夜寒かな

横手より来る稲舟も夕ごころ

真下なる波止へ折れゆく冬山路

神饌の放つておかれて神の留守

わたつみを抱く陸めける冬の雲

丹生川の底見る冬の山のみち

明ぼのの芥とや見む浮寝鳥

おびえ翔つあり羽音天に満つ

大ベルを吊す入口年の市

こぼれゐし歌留多順徳院の歌

地吹雪に天狼呆け失せにけり

水仙の島みち不意に海に落つ

文机に天神花の映えにけり

芹の水葉丹生の荒瀬に合はむとす

踏青や菅家謫居を心とし

海暮れて白魚月夜くまなけれ