阿波野青畝
甲子園
隠岐富士と呼ぶしたしさや畦を塗る
早乙女は隠岐の國なる媼かな
泰山木蕋をとどめて花は散る
戸隠の火を取る蛾にも蝶まじり
馬の鼻ぷるんと鳴らす暑さかな
奔流へ竜王の滝狂ひ落つ
灼け砂に海鳥の羽を拾ひ挿す
炎天に函嶺の紺滞る
海女二人朔日ごろの月に向く
立枯れは喬木ばかり星月夜
流れ星高天ヶ原をとびにける
蔓のまま朝顔飛びし野分かな
信濃路や花野のあなたにも花野
老猫の大きな顔に冬日かな
黒汐の冬白濤のおびただし
炉話や伯耆坊とは天狗ども
雪中に餅搗の薪無尽蔵
百度石かげれば年の暮れにけり