和歌と俳句

飯田蛇笏

椿花集

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野に在れば聖地の花を爐邊に挿す

書に溺れ極寒の些事かへりみず

深山に炭焼き暮るるひとりかな

深山空満月いでてやはらかき

寒雁に仄めく月の上りけり

落葉松の高き巣箱に初しぐれ

蒼天の一刷の雲冬嵐

鷹舞うて音なき後山ただ聳ゆ

深山空片雲もなく初雲雀

洞門のゆらめく水に鴨下りぬ

渓流に雲のただよふ今朝の秋

ひぐらしの土にしみ入る沼明り

カンナの黄雁来紅の緋を越えつ

寒の凪ぎ歩行のもつれ如何せん

背負はれて七十餘年一瞬時

山中の蛍を呼びて知己となす

青萱の出穂のしづかにの空

ねむる閧ノ葉月過ぎるか盆の月

見えわたる小野の墓群や秋の空

昼雨に玉蜀黍畑のきりぎりす

ありあはす山を身近かに今日の月

春めきて濃くなるばかり嶺の雲

家を出て眼近く低き藪の月