野に在れば聖地の花を爐邊に挿す
書に溺れ極寒の些事かへりみず
深山に炭焼き暮るるひとりかな
深山空満月いでてやはらかき
寒雁に仄めく月の上りけり
落葉松の高き巣箱に初しぐれ
蒼天の一刷の雲冬嵐
鷹舞うて音なき後山ただ聳ゆ
深山空片雲もなく初雲雀
洞門のゆらめく水に鴨下りぬ
渓流に雲のただよふ今朝の秋
ひぐらしの土にしみ入る沼明り
カンナの黄雁来紅の緋を越えつ
寒の凪ぎ歩行のもつれ如何せん
背負はれて七十餘年一瞬時
山中の蛍を呼びて知己となす
青萱の出穂のしづかに盆の空
ねむる閧ノ葉月過ぎるか盆の月
見えわたる小野の墓群や秋の空
昼雨に玉蜀黍畑のきりぎりす
ありあはす山を身近かに今日の月
春めきて濃くなるばかり嶺の雲
家を出て眼近く低き藪の月